1.スポーツルールについて
健康づくりなどを主目的とした市民スポーツから、トップアスリートと呼ばれる競技レベルの非常に高い選手が行うスポーツやプロスポーツまで、さまざまな種目や競技レベルのスポーツが日々行われています。個人の楽しみや満足を求める市民・レクリェーションスポーツでも、具体的なスポーツ行動の実践に向けての個々人の主体的な努力が必要であり、こうしたスポーツ理念は競技レベルが上がるほどに高くなり、時には自己の生命への危険を冒すケースも多くなっていきます。これをコントロールし人間のスポーツ行動を可能にしているのがスポーツ固有法(スポーツルール、スポーツ団体協約、スポーツ法理念など)の機能であり、とりわけスポーツルールが大きな役割を果たしています。
スポーツはルールに基づいて行われる点で、けんかや暴力とは当然異なり、ルールによって成り立つ社会的文化(身体運動文化)であるといえます。武道などにおける「礼」にはさまざまな意味がありますが、競技に臨み高揚する精神状態をコントロールするという意味においても、他の競技以上に特に重要な意義を有するものではないかと思われます。実際に起こったスポーツ事故の判例では、「およそ、スポーツやゲームに参加する者は、加害者の行為がそのスポーツやゲームのルールないし作法に照らし、社会的に許容される行為であるかぎりそのスポーツや、ゲーム中に生ずる通常予測しうる危険を受忍することに同意しているものと解する」(東京地判昭和39年12月21日、判時393号)として、スポーツの本質的危険性と危険の同意及びルール遵守の重要性について判示されています。つまり加害行為について、社会的に許容される限度においては違法性が阻却されますが、その限度を超えるものについては責任があるとしています。
ただし、これは大きな原則の1つを示したものであり、各事故の事案内容に即してルールの遵守以外にも他の諸事情を考慮して、個別・具体的に審理されることとなります。逆にルールに違反した場合は、あらゆる場面でペナルティが科せられることは周知のとおりです。(サッカーやラグビーなどのイエローカードやレッドカード、野球のボークなど多数あり)
2.スポーツマナーについて
一方マナーのほうは、本来自分自身が自発的に他者を敬い、相手方を不快な気分にさせないように気遣うことであると捉えられます。マナーの場合、そのようにしないからといって、ルール違反のようにペナルティは科せられません。良いマナーを多く学ぶことは大切ですが、マナーがマニュアル化され、画一化されすぎると、マニュアル以外のケースに対する対応力が欠けてしまったり、よく考えて行動する習慣を損ねたりすることが懸念されます。
また、マナーや倫理がルール化される場合もあります。あるスポーツの競技団体では、「規則違反ではないが、勝つために手段を選ばないという風潮がまん延している」として、ルールブックに「マナー」の項目が追加され、選手のみならず観客への項目も設けられました。このような例はスポーツの団体では現在ごく少数と思われますが、最近の例では、皇居周辺を走る人が増えそのランナーのマナーの是非をめぐって苦情がかなり寄せられ、何らかの規制が必要であるとして今年末をめどに規則の策定をめざしている動きなどもでてきています。こうして本来マナーの領域で処理されてきた事柄がルールの領域で処理される傾向が強まってきていることには、やはり問題があると思います。なぜならルール化されたマナーは他律的な一種の強制模範であり、自己の内心の自立性にはあまり影響を与えず、かえって道徳性を後退させてしまう可能性もあるからです。マナーにもさまざまな局面がありますが、試合中はもとより、試合後やコート・グランド外、さらにはそれ以外(実社会)でのマナーのほうが大切であろうと思われます。
話は変わりますが、当体育協会では定期的に利用者満足度調査を実施していますが、今回は6月末に行われました。施設に対するお客様の要望もありましたが、お客様の他のお客様に対する施設の利用マナーに関する要望や学校、各種クラブ・団体の指導者が子供たちに指導する際の言動等を注意する意見などが見られました。
3.むすび
中西 洋氏の「法律-道徳-慣習」の三層構造論によれば、人の「社会ルール」は「法律ルール」、「道徳ルール」、「慣習ルール」の三層構造をなしているといいます。その中で、法律ルール(表層)の原理は正義であり、道徳ルール(中間層)の原理は正、慣習ルール(基底層)の原理は公正であるとされています。(詳しくは下記の文献を参照)わたしたちは、公共スポーツ施設を管理する一員として、お客様の行動やニーズを十分に把握し、公共施設の役割を考えながら何が公正であるのか、またどのように対応することが妥当であり、どう行動すれば良いのかを常に見極めていかなければなりません。そしてより多くのお客様にご来館をいただき、1人1人のマナーが向上し、皆様に施設を気持ちよく使っていただけるよう努力したいと思っています。
≪ 参考文献 ≫
1 千葉正士 『スポーツ法学序説』 2001年3月30日 信山社
2 中村浩爾 『青少年スポーツのあり方と倫理のルール化の進展』日本スポーツ法学会年報第9号 2002年12月20日
3 東京読売新聞朝刊 紙面25 2001年4月14日
4 伊藤堯、佐藤孝司『体育・スポーツ事故判例の研究』1995年7月10日89頁
道和書院
5 中西洋 『近未来を設計する-〈正義〉〈友愛〉そして〈善・美〉-』東京大
学出版会 1998年
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